
林業にも、林業独自のブラック事業体が存在します。
ただでさえ労働環境の厳しい林業で、さらに労働時間や人間関係、安全管理などに問題のある事業体へ入ってしまえば、仕事を続けることはますます難しくなります。
しかし、これから林業へ転職する人が、求人票や会社のホームページだけで、その実態を見抜くことは簡単ではありません。
実際に働き始めてから、「思っていた会社と違った」と気づくことが離職の原因にもなります。
そのような事業体に入って後悔しないためにも、林業への転職を考えている人は、ブラック事業体にどのような特徴があるのかを事前に知っておいた方がよいでしょう。
この記事では、林業歴15年の経験をもとに、ブラックな林業事業体に見られる特徴と、入社前に確認したいポイントを解説します。
この記事で分かること
- 林業の厳しさとブラック事業体の違い
- ブラックな林業事業体に見られる特徴
- 求人票や面接で確認しておきたいこと
- 現場見学で見るべきポイント
- ブラック事業体を判断するときの注意点
この記事を書いた人

- 静岡県浜松市で10年間林業に従事(素材生産業者で伐採を主にやっていました)
- 現在 静岡県浜松市愛知県新城市などで個人事業主として、主に素材生産などを請け負っています
- 林業に関する基本的資格はすべて取得(林業架線作業主任者の国家資格取得者)
- 林業の情報を発信したくて林業ブログを運営(運営歴5年です)
- noteでは「五十代、林業個人事業主の独り言」として、林業コラムを書いています (林業コラムはこちらhttps://note.com/banbi_ni201)
林業の魅力や重要性などを実体験を通して発信していくつもりなので、林業に転職を考えている方は参考にしてください。
※本記事には、プロモーションが含まれています。


林業の厳しさとブラック事業体は同じではない

林業は、決して楽な仕事ではありません。
自然の中で働くため、天候や地形に左右されます。伐採や重機作業には危険があり、現場までの移動にも時間がかかります。
そのため、仕事がきつい、体力を使う、多少帰りが遅くなるという理由だけで、ブラック事業体と決めつけることはできません。
一方で、本来なら避けられる危険を放置したり、労働条件を説明しなかったり、従業員が断れない状態で無理な作業をさせたりすることは、林業だから仕方がない問題ではありません。
ブラック事業体かどうかを見るときは、仕事の厳しさだけでなく、次の点を確認する必要があります。
ポイント
・安全より生産量を優先していないか
・新人の経験に合わせて仕事を教えているか
・怒鳴る、威圧する指導が常態化していないか
・長時間の拘束や無給の時間外労働が多くないか
・事故が起きたあとに原因を検証しているか
・労働条件や費用負担を事前に説明しているか
ブラックな林業事業体に見られる特徴

安全よりも仕事の速さや生産量を優先する
林業では、仕事の速さだけでなく、安全な作業間隔や周囲の確認が欠かせません。
ところが、事業体によっては、安全よりも一日にどれだけ仕事を進めたかを重視します。
新人を必要以上に急かす、危険を指摘しても作業を止めない、重機と作業員を近い距離で動かすといった状態が日常になっている事業体には注意が必要です。
林業では、焦りが判断ミスにつながります。
「早くできる人が一人前」という考え方が強すぎる事業体では、経験の浅い人ほど無理をしやすくなります。
経験や能力を超えた危険な作業を任せる
林業の技術は、実際に作業しなければ身につきません。
そのため、経験を積むにつれて難しい仕事を任されることは必要です。
しかし、経験を積ませることと、まだ対応できない危険な作業を任せることは別です。
木の太さ、傾き、重心、周囲の状況によって、伐採の難しさは大きく変わります。資格を取得したからといって、すべての木を安全に伐れるわけではありません。
新人や経験の浅い作業員に、十分な説明や補助もなく難しい伐採を任せる。本人が危険だと訴えても、「やらなければ覚えない」「これくらいできないと困る」と続けさせる。
このような事業体は、新人を育てているのではなく、事故の危険を本人に背負わせています。
怒鳴る、威圧することを指導だと思っている
林業の現場では、チェーンソーや重機の音によって普通の声が届かないことがあります。
安全確認や合図のために大声を出すことと、失敗した作業員を怒鳴りつけることは別です。
林業事業体の中には、新人が仕事を覚えられないと怒鳴る、失敗を人前で責め続ける、質問すると機嫌を悪くするといった指導をするところもあります。
怒鳴られた作業員は、分からないことがあっても質問できなくなります。危険を感じても作業を止められず、失敗や小さな事故を隠すようになることもあります。
林業では、報告や確認をためらうことが重大事故につながります。
怒鳴ることを指導だと考え、作業員を萎縮させる事業体は、人間関係だけでなく、安全面にも問題があります。
新人教育を現場任せにしている
小規模な林業事業体では、専任の教育担当者がいないこともあります。
それだけで、悪い事業体とは限りません。
重要なのは、新人に誰が教えるのか、どの段階で何を任せるのかが決まっていることです。
全員が何となく教える、先輩の仕事を見て覚えさせる、教える人によって言うことが違うという環境では、新人が正しい作業方法を判断できません。
特に注意したいのは、ベテラン作業員が危険な方法で新人を指導していても、社長や現場責任者が止められない事業体です。
経験のある作業員を大切にすることと、その人のやり方をすべて認めることは違います。
立場や経験年数に関係なく、危険な作業を止められる体制が必要です。
長時間の拘束と無給の時間外労働が常態化している
林業は、現場までの移動に時間がかかる仕事です。
朝早く会社に集合し、社用車で現場へ向かい、作業後に会社へ戻って道具を片づける。そのため、現場作業以外の時間も長くなりやすい傾向があります。
中には、早朝から夜までの拘束が日常になっていたり、仕事が終わってから毎日ミーティングを行ったり、道具の整備や翌日の準備を勤務時間に含めなかったりする事業体もあります。
法律上の労働時間は、現場で実際に作業している時間だけではありません。
会社の指示によるミーティング、道具の積み込みや片づけなど、使用者の指揮命令下に置かれている時間は、労働時間に当たります。
現場までの移動についても、会社から移動方法を指示されている場合や、移動前後に道具の積み込みや片づけを命じられている場合などは、労働時間に当たることがあります。
それにもかかわらず、現場作業以外の時間を仕事として扱わず、顕著な時間外労働を当然のものとして従業員に負担させている事業体は、ブラック事業体と判断してよいでしょう。
求人票に書かれた始業時刻と終業時刻だけでは、実際の拘束時間は分かりません。
入社前には、朝の集合時間、現場までの移動時間、帰社後の作業、ミーティングの頻度、実際に会社を出られる時刻まで確認することが大切です。
悪天候でも無理に作業を続ける
悪天候でも無理に作業を続ける
林業は屋外作業なので、雨や風の影響を強く受けます。
多少の雨でも作業する事業体はあります。雨の日に必ず休む会社だけが、安全な会社というわけではありません。
しかし、強風や大雨の中で伐採を続けることは、通常の雨天作業とは分けて考える必要があります。
強風時の伐採では、予定した方向に木が倒れない、木が裂ける、上部から枝が落ちてくるといった危険が増します。
労働安全衛生規則第483条でも、強風、大雨、大雪などの悪天候によって危険が予想される場合、事業者は造林等の作業を行わせてはならないと定めています。
つまり、危険が予想される悪天候の中で作業を続けさせることは、単に安全意識が低いだけではなく、法令上も問題となる可能性があります。
注意したいのは、悪天候時の中止基準がなく、現場の状況よりも予定や生産量を優先する事業体です。
「今日中に終わらせたい」「休むと売上が減る」という理由で危険な作業を続ける会社では、従業員の安全が後回しにされています。
労災を使わせない、事故を隠そうとする
仕事中の怪我であるにもかかわらず、労災を使わず自費で治すよう求めたり、仕事中の事故ではなかったことにしようとしたりする事業体には注意が必要です。
会社が労災の使用を嫌がったとしても、労災保険を請求するかどうかを会社だけで決めることはできません。会社から事業主証明を得られない場合でも、労働者本人が労災保険を請求することはできます。
また、事業者には、報告の対象となる労働災害が発生した場合、労働者死傷病報告を労働基準監督署へ提出する義務があります。
事故の発生を隠すために報告書を提出しなかったり、虚偽の内容を記載して提出したりする行為は、いわゆる「労災かくし」に当たり、労働安全衛生法違反となります。
軽い怪我だと思っていても、後から症状が悪化することがあります。
さらに、事故を隠せば原因の検証も行われず、同じ危険が現場に残ります。
労災事故が起きたこと以上に、それを隠そうとする姿勢に、その事業体の安全に対する考え方が表れます。
道具や防護装備の費用負担を説明しない
林業では、チェーンソー、ヘルメット、防護ズボン、防護ブーツ、雨具など、さまざまな道具や装備を使います。
会社がすべて用意する場合もあれば、一部を本人が準備する場合もあります。
個人負担があるというだけで、ブラック事業体とは限りません。
問題なのは、何を会社が負担し、何を本人が負担するのかを入社前に説明しないことです。
チェーンソー本体だけでなく、修理代、燃料、替え刃などの消耗品、防護装備の買い替えまで本人負担になれば、実際の手取りは大きく減ります。
求人票の給料だけでなく、仕事を続けるために自分で支払う費用まで確認しておく必要があります。
壊れた機械や安全装備を使わせ続ける
林業では、古い機械や道具を修理しながら長く使うことがあります。
古いというだけで、危険な道具とは限りません。
問題なのは、安全に関わる不具合があると分かっているのに、修理や交換をせず使わせ続けることです。
機械やチェーンソーの異常を報告しても、「まだ使える」「使い方が悪い」と取り合わず、作業を続けさせる事業体には注意が必要です。
林業では、道具や機械の不具合が重大事故につながります。
安全のために必要な修理まで惜しみ、生産を止めないことを優先する事業体は、従業員の命より目先の仕事を重く見ている可能性があります。
一つの特徴だけでブラックと決めつけない

ここまで、ブラックな林業事業体に見られる特徴を紹介してきました。
ただし、一つ当てはまっただけで、すぐにブラック事業体と決めつけることはできません。
会社の規模、地域、仕事内容、雇用形態によって、働き方には違いがあります。
見るべきなのは、問題を質問したときに会社がきちんと説明するか、改善しようとするかです。
反対に、次のような状態が重なっている場合は慎重に判断した方がよいでしょう。
ポイント
・求人票と実際の条件が違う
・質問しても具体的に答えない
・危険を指摘すると怒られる
・「林業では当たり前」という言葉ですべてを済ませる
・新人や若手が短期間で辞めている
・事故や退職を本人の責任だけにする
完璧な会社はありません。
しかし、問題があることと、その問題を放置して従業員に負担させることは別です。
求人票と面接で確認したいこと

ブラック事業体を避けるためには、給料の金額だけで転職先を決めないことが大切です。
求人票や面接では、次の点を確認しましょう。
- 朝はどこに何時集合なのか
- 現場から戻り、実際に会社を出るのは何時頃か
- 移動時間や帰社後の作業はどのように扱われるか
- 仕事終わりのミーティングはあるか
- 雨天時の仕事と給料はどうなるか
- 悪天候時は誰が中止を判断するか
- 新人はどのような作業から始めるか
- 新人を主に誰が指導するか
- チェーンソーや防護装備は誰が用意するか
- 修理代や消耗品は誰が負担するか
- 仕事中に怪我をした場合、どのように対応するか
- 最近入社した人が、現在も働いているか
質問した内容だけでなく、会社側が具体的に答えてくれるかも見ておきます。
質問を嫌がる、説明が何度も変わる、「入れば分かる」「うちは昔からこうしている」と済ませる場合は、注意が必要です。
可能であれば入社前に現場を見学する

林業会社の実態は、求人票や面接だけでは分からないことがあります。
可能であれば、入社を決める前に現場を見学させてもらいましょう。
現場では、次のような点を確認します。
- 作業員同士で安全確認をしているか
- 重機と作業員の距離が保たれているか
- ヘルメットや防護装備を着用しているか
- 作業員が必要以上に急かされていないか
- 上司やベテランが怒鳴っていないか
- 新人や若手が質問できる雰囲気か
- 車両、機械、道具が管理されているか
- 作業前の打ち合わせが行われているか
一度の見学ですべてを見抜くことはできません。
それでも、面接で説明された内容と、実際の現場が一致しているかを確かめる材料になります。
見学時にどこを見ればよいのかは、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ|「林業だから仕方がない」で受け入れない

林業には、外から見ただけでは分からない厳しさがあります。
長い移動、天候による予定変更、体力を使う作業、常に事故の可能性がある環境。こうした条件をすべてなくすことはできません。
しかし、安全を軽視すること、怒鳴って従わせること、能力を超えた作業を任せること、顕著な時間外労働を無給で続けさせることまで、林業の一部として受け入れる必要はありません。
大切なのは、仕事が厳しいかどうかだけではなく、その厳しさに対して会社がどのように向き合っているかを見ることです。
求人票や面接だけですべてを見抜くことはできません。それでも、入社前に疑問を確認し、可能であれば実際に現場を見ることで、判断するための材料は増やせます。
納得できないことを残したまま、「林業だからこんなものだろう」と転職を決めないようにしましょう。
そして、こうした体質の事業体を選ばないことが、林業界からブラックな事業体を減らすことにもつながります。
実際に林業の現場で起きた事例については、こちらの記事で紹介しています。


