どうも、元フォレストワーカーのkitajinです。
本記事では、ボクが経験したヒヤリハットについて紹介しています。
ボクは10年間、林業に携わってきて、数多くのヒヤリハットを経験してきました。
その中には、ボクが起こしたヒヤリハットだけでなく、僕が長い間一緒に働いていたベテラン作業員が起こしたヒヤリハットも数多くありました。
今回はボクだけでなく、そのベテラン作業員、(仮にYさんとしておきます)について語りたいと思います。
簡単にその人の紹介のすると、高校卒業後に林業の会社に就職して、そこから、僕が出会った当時60代後半まで、約半世紀林業一筋でやってきた人です。
Yさんとボクが起こしたヒヤリハットを知ることにより、是非、参考にして安全作業に努めください。
この記事を書いた人
- 静岡県浜松市で10年間林業に従事
(素材生産業者で伐採を主にやっていました)
- 林業に関する基本的資格はすべて取得
(林業架線作業主任者の国家資格取得者)
- 林業の情報を発信したくて林業ブログを運営
(運営歴1年の新人です)
林業の魅力や重要性などを実体験を通して発信していくつもりなので、林業に転職を考えている方は参考にしてください。
※本記事には、プロモーションが含まれています。
ヒヤリハット事例 Yさんのケース
以下の事例は、10年以上前の話です。現在の林業とは少し趣が違うかもしれませんが、時代背景も考慮してご覧ください。
倒れてきた木に当たりそうになる1
最初の事例は、ボクが林業の事業体に入ってまだ3ヶ月も経っていない頃の出来事です。
ボクの仕事は、Yさんについて、様々なサポートをするというものでした。
チェーンソーの燃料を補充したり、伐採する際にクサビを打ったり、牽引具をつけて引っ張るという作業をその人の指示に従い、行っていました。
その日の作業は伐採で、大径木にワイヤーをつけて、チルホールで牽引して倒すという作業でした。
作業をしたことある人はわかると思いますが、チルホールで牽引する場合は、必ず倒す方向に滑車をつけてワイヤーを V の字にして、危なくない位置にいて牽引しなくてはいけません。
ですが、そのベテラン作業員はなぜか V の字には引かず、直接まっすぐ引くという指示をしたのです。
あまり覚えていませんが、おそらく手前に滑車を付ける木がなかったのでしょう。
ボクもあまり深く考えずに言われるままに、遥か先にある木の根もとにスリングベルトとチルホールをつけて、伐採する木のワイヤーを張っていきました。
ベテラン作業員が受け口、追い口を入れて、僕がチルホールで牽引を始めると、木がゆっくりと倒れ始めました。
すると、届かないと言っていた木が、自分めがけて真っ直ぐ倒れてくるではありませんか。しかも、が完全に届きそうなのです。
これは逃げないとヤバいと思ったのですが、アンカーに指定した木は斜面の上に立っており、右側は壁、左側は5メートルの切り立った岩場の斜面。後ろは伐倒範囲なので、どこまで逃げればいいかわからない。
結局ぼくが選んだのは、 アンカーになっている木を中心として、どちらに倒れるかを見極めてから反対の背へ移動して回避するというものでした。
アンカーにした木はかなり太かったので、木を背にせてどちらかに避ければ、被害は防げると思い、倒れてくる木をじっと見ながら、どちらに倒れてくるか判断し、逆の方へと逃げるのでした。
木の直撃は避けられましたが、倒れた瞬間、枝の先がヘルメットを撫で、風圧でかなりの埃が舞いました。
生きた心地がしない一瞬でした。
倒れてきた木に当たりそうになる2
架線集材をしている時のことです。
架設を指示するのは、Yさんの仕事であり、どこにどういうふうに線を張るかということを設計し、他の従業員に指示を出していました。
その人が作った架線集材で、2度ほど柱が倒れ、何度も線を切ったことがあります。
最初は元柱が脆弱な斜面に立っていたので、アンカーを取っていたにもかかわらず根返りをしてしまい、あわや作業員に直撃しそうになったのです。
2度目は、エンドレスタイラーで架線集材をしていた時に、動索の滑車を付けていた向柱がちょうど法面のところに立っていて、法面ごと崩れて倒れたのです。
その真下にボクがいたのですが、不可解な音に気付いて振り返るとm木が倒れてきたので慌てて逃げたことにより難を逃れました。
根がちゃんと張ってないところを柱にしてしまい、更にアンカーをきちんと取ってなかったというミスです。
更に架線の本線を切ったこともあります。
長くなるので、詳しくは話しませんが、無理な角度で本線を曲げていたせいで、何度も集材しているうちに曲げてある箇所が弱くなり切れたのでした。
倒れてきた木に当たる1
Yさんは、倒れてきた木に直撃したことが、僕が知っているだけで2度あります。どちらも、枯れ木の処理の時です。
一度目は細い枯れ木を倒し、そのかかり木をYさんは何気なく斜め切りをしたのですが、それが自分の方に倒れてきて 避けようとしたが間に合わず、それが足の上に落ちて、しばらく動けなくいました。
倒れてきた木に当たる2
切り捨て間伐をやっていた時の話ですが、切り捨て間伐とは、一度も間伐をしたことはない山林の悪い木を間引いて、残りの木を育てるためにやります。
当然、密集した木の中で作業をしなくてはならず、かなりの確実でかかり木になります。
本来なら牽引具を使い、安全に倒していくのですが、切り捨て間伐は短時間でなるべく多くの木を伐るというノルマがあったので、Yさんは斜め切り、元玉切りをしてました。
すると、その木はどうやら上の方が枯れていて、玉切りをした途端に真ん中あたりがポキッと折れて、Yさんの頭めがけて落ちてきました。
枯れた細い檜の樹冠が落ちてきたことにより、体が投げ出されて、斜面を転げ落ちました。
見ていたボクが慌てて駆けつけると、ヘルメットがパッカリ二つに割れていました。
むち打ちの症状が出たのか、照れなのか、Yさんは首の辺りを揉んでいました。
落ちてきた枝にぶつかる
伐採時に気をつけたいのは、倒した木が自分の体に接触すること以外にも数多くあります。
その代表的なものといえば、倒した木に接触したことにより枝が折れ、それが地上に落下してきて伐採者に直撃するということです。
特に杉の枝は折れやすく、しかも、かなり重いので地上2.30 M から落下して、人体に当たるのですから、ただでは済みません 。
Yさんが伐採時、杉の枝が折れ、ヘルメットのひさしに当たり、ひさしが割れて折れて、顔の前かすめて地面に落ちました。
それにより、顔に擦り傷で血が出る怪我をいましたが、それくらいで済んでラッキーでした。鎖骨に直撃して、骨折したこともあるそうです。
倒れてきた木に押しつぶされそうになる
この現場にはいなかったので、人聞きの話ですが、
仕事の関係上、Yさんが伐採をやり、補助の作業員が、牽引具で引っ張って倒すという作業をしていました。
その作業は、山を切り崩して団地を作る計画で、土建業者が元請けでいました。山には、杉檜だけでなく、広葉樹の伐採も数多く生えていて、広い山の一角を皆伐していました。
太い広葉樹の伐採をしていた時のこと、Yさんは牽引する前に、ツルを飛ばしてしまい、広葉樹がYさんに向かって倒れてきたそうです。
その現場には、現場監督がいて、それを見ていて、自分のキャリアも終わりだと思ったそうです。
しかし、ベテラン作業員は、体を地面に伏せて、ちょうど、根っこが歯止めになったおかげで助かりました。
崖から落ちる
これもまた聞きの話ですが、Yさんは急斜面からも落ちたことがあります。
かなり切り立った斜面で切り捨て間伐をしていた時のこと、誤って20メートル近く下へ滑落したそうです。
チェーンソーが投げ出され、何度も転げながら、落っこちていく様を 一緒にいた人がそれを近くで見ていて、さすがにこれはヤバいだろうと思ったそうです。
慌てて、近づいていくと、Yさんはほぼ無傷で埃を払い、作業を続けたと言います。
木の上から落ちる
Yさんは、木の上からも何度か落ちたことがあります。
しかし、その度に、どういう運動神経をしているのか、猫のような反射神経で無傷で着地するのです。
架設作業をしている時のこと、Yさんはちょっとやそっとの高さでは、ハーネスなどの安全ロープは付けません。
ある時、二段梯子(3.4m)の上から誤って落ちました。下は、下りの斜面で、落下地点に切り株がありました。
どう落ちてもケガをしそうなところだったのですが、落ちてからすぐに立ち上がりました。
大丈夫かとYさんに尋ねると、「落ちている途中に切り株に当たると思い、体をくるっと回転させて避けた」と言っていました。
ホントか嘘か分かりません。
頭の上を大木が掠める
これはボクが体験したヒヤリハットの中でも一番ゾッとした出来事です。
この日、ボクとYさんと同僚との3人で架設後の造材作業をしていた時の事です。
Yさんは、後先を考えずスピードだけを重要視するような仕事ぶりでした。
架線集材での伐採をする時も、搬出する木をデタラメに倒すだけ倒して、その後、折り重なった木をどう処理していくのか、というようなことやっていました。
特に、かかり木になると、その後ろにある木を倒して、その重みでかかり木を倒すようにしていて、その現場では、どうやったのか、10本近くの木がかかり木となり、広葉樹に寄りかかっていました。
ラジキャリを使って、そのかかり木の処理をすることになったのですが、ベテラン作業員がその中の1本をラジキャリで引き上げようとしたその時、折り重なっていた木が引っ張った木の上に乗り、滑るように落ちてきたのです。
そして、その先に居たのが、たまたま現場を見に来ていた親方でした。
「おい、危ないぞ」と、ベテラン作業員が声をかけて、その場を離れた親方の頭の上をその杉がかすめて、背後の木にものすごい音を立ててぶつかったのです。
もし、「危ないぞ」と声をかけなかったら、後ろの木と滑り落ちてきた木に挟まれて、親方は即死していたでしょう。
造材した木に足を折られる
前述通りYさんは、架線集材時、先にある程度切り倒してから、架設して造材していくという方法を取っていたのですが、そのようにしておくと、折り重なった木がどういう状態にあるのかが分からない時があります。
ある時、Yさんが造材した木が、かなりしなっていたらしく、造材した途端に、自分の脚めがけて幹が跳ね返ってきたそうです。
余程しなっていたらしく、Yさんは歩くことができず、ボクが病院まで連れていく事になりました。
とにかく、木の状態を見ずにどんどんと切り進んでいくので、危険なことが多々ありました。一度などは、かなりしなった檜を真ん中あたりから造材しようとチェーンソーを入れた途端に、「パーン」と音を立てて弾けて、チェーンソーもろとも吹っ飛ばされたこともあります。
伐採時も、ほとんどクサビも使わないので、よくチェーンソーが挟まれており、挟まれてからようやくクサビを入れていくという、本来とは逆をしていました。
それでも取れない時は、別の作業員が助けに行くのです。
万が一の時の為に保険
気を付けていても怪我をする時があります。
そんな時に役立つのが保険です。ボクが怪我をした時も、加入していた保険から入院費用が出て、休業時の収入の維持に役立ってくれました。
労災の休業補償は、給料の80%を保証てくれるだけなので、どうしても不足分がでます。
休業1日につき、給付基礎日額の80%(休業(補償)給付=60%+休業特別支給金=20%)が支給されます。
休業補償の計算方法を教えてください。|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
なお、所定労働時間の一部について労働した場合には、その日の給付基礎日額から実働に対して支払われる賃金の額を控除した額の80%(60%+20%)に当たる額が支給されます。
そんな時に保険に加入していれば、その不足分を補ってくれるのです。
ヒヤリハット kitajinの事例
チェーンソーに当たる1
チェーンソーの刃に当たったことも2回あります。
1度目は、足元にある木の枝を、チェーンソーの先で切ろうとした時にキックバックして、僅かに左足の甲を掠めました。
ほんのわずかな足を掠めただけですが、それだけで足袋は破けて、甲の薄皮を掬い取りました。
今でも傷痕が残っています。
チェーンソーの傷は必ずいびつに残るところが厄介です。
チェーンソーを燃やす
ラジキャリとはラジコンキャリーのことで、手元で電波操作して動かせる架線集材機のことを言います。
架設をおえ、ラジキャリの走行していたところに枝が引っかかって、それ以上前に進めなかったので、ボクはその枝を除くためにチェーンソーを持ってラジキャリの上に乗りました。
そして、自ら動かしてチェーンソーで枝を切って、走行を可能にしたのです。
作業が終わり、途中の木に付けてあった梯子を伝ってラジキャリを降りて、チェーンソーを乗せたまま、元柱に向けてラジキャリを送ったのです。
しかし、そのチェーンソーを置いたところがまずかったのでした。
エンジンの排気をするマフラーのところにチェーンソーを置いたせいで、排気口が塞がれて、マフラーの熱がチェーンソーに伝わり、煙を上げて、チェーンソーを焼いたのです。
元柱にいた同僚が、いち早く気づき、チェーンソーを退かし、ラジキャリのエンジンを止めたことにより、事なきを得ました。
しかし、そのことによりチェンソーのスターター部分を破損させたのでした。
崖から落ちる
その山は、まるで砂利を敷き詰めたような地質をしていました。
一歩、踏み込むと足が持って行かれるような、そんな蟻地獄のような斜面が続いており、そこで切り捨て間伐をしていました。
すると、斜面が30°ぐらいのところを歩いている時、急に足が取られ滑り落ち始めました。
一気に下までどんどんと加速していき、もがくけど、どうにもならないので、足を踏ん張り止まるようにしてみましたがそれでもダメで、砂利が流砂のように下に下へと僕の体を運んでいきます。
そして、ついに、流砂の先が視界が開けていて、灌木に手を掛けようとしたが失敗して、隙間から崖に落ちていきました。
終わったと思った瞬間、すぐ地面につき足が付きました。
もし、そこが本当に崖ならば、落ちて死んでいたのかもしれません。
頭に木が直撃する
切り捨て間伐をしていた時の事、沢が手前にあり、周囲が岩だらけのところに40年生の杉が生えていて、その中の一本を伐ることにしました。
切り捨てた木は、沢に入れたり、橋渡しにしてはいけないので、何とか横倒しにしようと手前の木に立てかけるように切り倒し、その後、元玉切りをして横に倒そうと考えました。
横倒しになってはくれたのですが、倒れた場所が自分の背丈よりも高い岩の上で、木がシーソーのようになってしまい、樹冠が岩の向こう側にあったので、そっちに傾くと思いきや、いきなり岩の上を滑って、自分の頭の上に幹が落ちてきたのです。
何回か元玉切りをしたとは言え、まだまだ太い40年生の杉の幹だったので、直撃したときは、首がめり込み、目に火花が散り、脳が揺れて、その場にへたり込んでしまいました。
10分か20分くらい動けずにいたのですが、何とか動けるようになるとヘルメットを脱いでみました。
絶対にヘルメットが割れたと思ったのですが、ヘルメットは無事。しかし、あまりの衝撃で、しばらくむち打ちで仕事を休む羽目になりました。
最後に
こうやって抜粋するとYさんは酷い作業員のように見えますが、ずっと林業に携わってきただけあって、林業だけでなく山の知識もあり、仕事について教えてもらいました。
それに、面倒見もよく、本当にお世話になった人です。
もしかしたら、Yさんが特別ではなく、昔の作業員は多かれ少なかれ、あんな感じでやっていたのかもしれません。だから、昔は労働災害が桁違いだったのではないかと思ってしまいます。
それでも並外れた運動神経を70近くまで維持するということは、さすがだなあと妙なところで感心しています。
しかし、一歩間違えれば命がなかった事例が数多くあることから、老人が林業で亡くなる一番多いということがよくわかります。
年をとっても林業を続けたければ、常に慎重に行動するということが求められるという反面教師的な事例ではないでしょうか。